2022年1月29日から、弥生美術館で「くらもちふさこ展」がスタートします。合わせて50年の画業を編んだ原画集「THEくらもちふさこ」も1月25日に発売されました。縁あって弊社でもちょっとお手伝いをさせていただいたこともあり、無事発刊・無事開催できたことがとてもうれしく思います。
くらもちふさこ先生といえば、1972年のデビュー以降、常に少女漫画界の第一線で走り続ける巨匠。画材もペンタッチも作品ごとに変幻自在で、ちぎり絵やマーブリング、複数の紙をレイヤーのように重ねることで完成するアナログイラストに加え、かなり初期からパソコンでの作画にも挑戦しておられます。ペンで描いたのちにPhotoshopのフィルタ機能で変形・変色させたもの、デジタル作画ながら、プリントアウトの調子で色を変えたものetc…。先生は制作過程のデータもまめに保存してくださっていましたが、我々の前に立ちふさがった大きな壁のひとつが「MO(エムオー・光磁気)ディスク」でした。
ひと昔前…それこそ2000年代初頭まで、印刷業界での入稿といえばMOが主流。CDやDVDとちがって何度でも上描きできたのと、分厚いケースに入っているので、長期保存に向いていると言われていたのです。
↑ここにガシャンとさしこみます。
しかし、Macで書きこんだMOはMacでしか読めない。Windowsで書きこんだMOはWindowsでなければ読めない。
かつ、Macの場合、書きこんだ当時のOSでないと、読めないものもある!
(※一部のディスク容量、フォーマット次第では互換性がある場合もありました)
上のMOドライブを見ていただくとわかりますが、「Sorry,no beige.」なんてキャッチコピーがついていた(ベイジュに対してなんという…)キャンディカラーのiMacに合わせているんですよね。その後、雪見だいふくがついているMac、白い分厚い板だったMacの頃に一世を風靡していたのが「MO」。今のいぶし銀仕様のMacは「ドライブ? 何その前時代の遺物。知らないわ」という具合に、CDドライブすらついていません。そして、外付けのMOドライブがあっても、読めないんですよね…。弊社は割と古い機体をデバッグ用にとって置く癖がある方ですが、事務所ではどうしようもなく、奇特なマカーのお兄様に吸い出してもらうことになりました。
おいMO、おまえデビュー当時「50年は保存できる」って言ってたじゃんか…と思ったんですが、まさかMO本人だってそりゃ「繋がる機械がなくなる」とは思わないですもんね。
この現象、この界隈の、ある年代にパソコンで創作活動をしていた方々全員に言えることなので…大き目の声で言っておきます。
なんらかの手段を講じて、バックアップを取って…ください
できれば…クラウドに…くらもち展だけに…
そしてもうひとつ、よい子のお約束です
めんどうくさくても ファイル名はおうちゃくしないこと
今回画稿整理をお手伝いするにあたり、作品番号を付与し、フォルダにも個別ファイルにも番号を振って管理しました。こうしておくことで、仮にファイル1個だけ持ち出しても、何の作品でどの雑誌に掲載されたか逆引きできるようにしたのです。
というのも、データって紙よりもよっぽどやっかいなことに、どれが本物か分からなくなります。紙の原稿には、裏面や端に当時の編集者がメモした作品名や掲載誌などの手がかりがふんだんに残っているのです。何度も画集や展覧会に出品された絵になればなるほど、中国の名画のように判が増えていく。これが実は、展覧会作業の時すごく助かるのです。
デジタルのデータは、余白がないので手がかりゼロです。名前をしっかりつけるか、年月日をファイル名に入れておくと、あとあと、とても助かります。あと、この作業が可能になったのは、集英社さんがBoxを導入したから、というのも付け加えておきたいと思います。
制作中は、コロナの影響で国会図書館や資料室の利用時間に制限がかかりました。いつも以上に基礎調査を効率的に行う必要がありましたが、Boxにすべての資料をあつめることで、シームレスに図録・展示チームが作業を進めることができました。
下版したあとの共有フォルダ。容量というよりファイル数がヤバいんですが、クラウドなのでその辺は気にしないでいられるだけでも相当作業効率があがりました。MOと紙の時代だったら、このコロナ禍の中で画稿を整理しきれたかどうか…正直自信がありません。
ということで、まんが家のみなさん…もしくはお近くにいらっしゃる編集者の方々…MOに最終データを保存した記憶はありませんか? なにとぞお早めに腰をあげていただきたいと思います。
【関連リンク】
- 弥生美術館 デビュー50周年記念 くらもちふさこ展 ―デビュー作から「いつもポケットにショパン」「天然コケッコー」「花に染む」まで―
https://www.yayoi-yumeji-museum.jp/index.html
- くらもちふさこ展公式Twitter
https://twitter.com/kuramochi_ten
- THEくらもちふさこ デビュー50周年記念画集
https://www.s-manga.net/items/contents.html?isbn=978-4-08-792082-6